皆さんこんにちは、SBC整形外科・西新宿整形外科クリニック院長の沼倉裕堅です!
本日は成長ホルモン注射とドーピングの関係についてお話ししていきます。
成長ホルモン製剤ですが、正式にはソマトロピン Somatropin(genetical recombination)といいます。
1985年に遺伝子組み換えヒト成長ホルモン製剤が世に出てから40年以上経っていますね。
安全性に関しては沢山の論文で十分に証明されており、使い方さえ間違わなければ非常に可能性を秘めた安全性の高い治療薬です。
しかし、安全で有効性の高い製剤であるがゆえに、スポーツの世界などではフェアプレーの精神に反するような事例にも繋がりやすいです。
そう、それがドーピングです。
本日は成長ホルモンのドーピングについてお話ししていきます。
成長ホルモンの効果
成長ホルモンは、成長期に身長を伸ばすのに必要な超重要なホルモンであることは皆さんご存知かとおもいます。
しかし成長ホルモンは、その他にもさまざまな役割があります。
免疫機能の強化をしたり、脂肪分解を促進し代謝を促したり、コラーゲン合成を促し皮膚の健康状態を保つなどアンチエイジングとしての役割もあります。
そしてさらに、もう一つ重要な役割があります。
それがアナボリック効果(筋肉合成の促進)です。
これにより、筋力の増強効果、また損傷した筋肉の修復促進効果もありスポーツ選手にとっては非常に魅力的な作用になります。
このアナボリック効果を目的にスポーツ選手が成長ホルモンを使用することは、いわゆる「ドーピング」にあたるとして問題視されているんですね。
成長ホルモンが筋力増加を生み出すメカニズムとは?
成長ホルモンは視床下部からGHRH(成長ホルモン放出ホルモン)の刺激を受けて下垂体前葉から分泌されます。
成長ホルモンは一部、直接骨や筋肉に作用するメカニズムもありますが、主には肝臓に作用し、ソマトメジンC(IGF-1)を作り、それが骨の成長や筋力増加に影響しています。
GHRH→成長ホルモン→ソマトメジンC(IGF-1)→骨や筋肉の成長
このようなメカニズムで体の成長に繋がっていきます。
実際に成長ホルモン注射は運動能力が上がるのか?
成長ホルモンがソマトメジンCを介して筋の合成を促進させるメカニズムについては、解明されています。
しかし、成長ホルモン注射がアスリートのパフォーマンス向上に直接影響を及ぼすことを証明した研究はそれほど多くはありません。
というのも、そもそも成長ホルモンはもともと体の中に存在するホルモンですし、運動やストレスによって分泌量が上がったり下がったりするもので、注射で補充しても、自分で作っている成長ホルモンとの違いが非常にわかりにくく、効果を判定するのが難しいのも関係していると思われます。
そのような状況ではありますが、1つ運動機能に成長ホルモンが与える影響についての論文を紹介します。
オーストラリアのUdo Meinhardt,MD らが2010年に発表した研究で、106人のアスリートを対象に、成長ホルモン(GH)の効果(とテストステロンの効果)を調査しました。
The Effects of Growth Hormone on Body Composition and Physical Performance in Recreational Athletes: A Randomized Trial

この研究で、アスリートに対して成長ホルモン注射を行うことで分かったこと。
・成長ホルモンの注射によって、瞬発系のスプリント能力の一時的な運動機能向上した。
・その効果は注射終了後6週間継続する。それ以後は効果は消失する。
・成長ホルモンによって除脂肪体重が増加したものの、筋肉量の増量よりは細胞外水分量の増加に、主に起因している可能性が高い可能性が示唆された。
この研究では成長ホルモンの投与量を2.0 mg/dayに設定しており、成人に投与する量としてはかなり高容量で行っていますね。
成長ホルモンを高容量で投与することにより、スプリント種目においてはドーピング効果があると入って良いのではないでしょうか。
しかし、成長ホルモンを長期間にわたって高容量で使用することで、筋肉量を効率よく付けられるかというと疑問ですね。
成長ホルモンとは別の薬になりますが、アナボリックステロイド(別途記事にしようと思っています)は、蛋白同化作用が極めて強いので、筋肉量を増やすならそちらの方がずっと効果が強そうです。
成長ホルモンはドーピングに該当する?
結論、「該当する」と考えてください。
実際にオリンピック選手が成長ホルモンの注射をしてしまうと、違反となって退場です。
しかし、前述のように成長ホルモンは体内で合成されるもので薬ではありません。
「遺伝子組み換えヒト成長ホルモン製剤」と「自分の成長ホルモン」の区別をするのは簡単ではありません。
ではどうやって検査するのでしょうかね。
次回は成長ホルモンのドーピング検査はどのように行なっているのかを交えて、記事にしていこうと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。それではまた!
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