皆さん、こんにちは!SBC整形外科・西新宿整形外科クリニック院長の沼倉裕堅です。
今日は成長ホルモンがスポーツ競技者に対して、ドーピング検査をどのような仕組みで行なっているのかを解説していきたいと思います。
本日も非常にマニアックな内容になっていますので、興味がある方にとってはタメになる内容かと思いますので、ぜひ最後までご覧ください!
成長ホルモンがなぜ、ドーピングになるのかは前回の記事で書いてますので、そちらを確認してみてくださいね👇👇
成長ホルモンはもともと身体の中で作られているホルモンですので、覚醒剤のように薬物反応などで白黒はっきりするものではありませんので、どのような仕組みで検査しているのか、深ぼっていこうと思います!
成長ホルモンの構造について
そもそも成長ホルモンとは何なのでしょうか、分子レベルで深ぼってみていきましょう。
ヒト成長ホルモン hGH(human GH)

人間の成長ホルモンは主に191個のアミノ酸が結合してできたペプチド(たんぱく質)で構成されます。
分子量は約22000程度あり、22kDa-hGHと表記します。
人間の身体の中で作られる90%程度はこの22kDa-hGHです。
残りは何かというと、22kDa-hGHから、遺伝子スプライシングを受けた分子量の小さいh-GHであり、分子量が20000程度の20kDa-hGH、分子量が17000程度の17kDa-hGHなどがあります。
22kDa-hGHが大半ですが、人間では20kDa-hGHが約6%程度存在することがわかっています。
これらの成長ホルモンの分子量の違いにより、筋力増強効果や脂肪燃焼効果に違いがあるかないか、子供の成長にとって、違いがどれだけ明確にあるかは、現段階の研究結果では様々な意見があり、断定し切れない段階です。
ドーピング検査はどのように行うのか?
前述したように、人間の身体の中にもともと存在する成長ホルモンは複数の種類が存在し、かつその割合が大体は決まっています。
22kDa-hGHが90%、20kDa-hGHが約5-10%です。
現在、市場で多く出回っている遺伝子組み換えヒト成長ホルモン製剤は、そのほとんどが22kDa-hGH製剤となります。
アスリートがドーピング目的で使用する成長ホルモンは、そのほとんどが22kDa-hGHであるため、注射により多量に体内に取り込まれると、血液中の成長ホルモンの20kDa-hGHの割合が低くなるため、ドーピングをしているかどうかがわかるということですね!
しかし、一般的に入手するのは困難ですが、20kDa-hGH製剤もあるので、生体の比率と同じ割合でドーピング製剤を作ってしまうと、上記方法では検出が難しくなりますね。。。
実際に成長ホルモンのドーピングで捕まった選手はいるのか?
残念ながら過去に、hGHによるドーピングで摘発されてしまった事例は実在します。
パトリック・シンケウィッツ(Patrick Sinkewitz)選手
ドイツのプロ自転車選手であるシンケウィッツ選手は、2011年2月にスイスで開催されたGPルガーノでのドーピング検査で、hGHの陽性反応が検出されました。
これにより、出場停止処分を受けています。
ブレッシング・オカグバレ(Blessing Okagbare)選手
ナイジェリアの女子短距離走・走幅跳選手であるオカグバレは、東京オリンピック直前のドーピング検査でhGHの陽性反応が出て、出場停止になりました。
2022年にはドーピング違反により10年間の資格停止処分を受けています。
成長ホルモンのドーピングに対して個人的見解
成長ホルモンのスプリント系競技における瞬発力向上効果などを目的として、短期間で爆発的な出力が重要になる競技者にとっては、確かに成長ホルモンは魅力的に見えてしまうでしょう。
医学的観点からしても、蛋白同化ステロイドなどと異なり、もともと身体の中で合成される成長ホルモンを補うという意味では敷居が比較的低く、手を出しやすい薬なのかもしれません。
しかし、あくまでフェアプレーが前提のスポーツの世界においては、薬の種類が生理的な物質かどうかは論点が違いますし、意味のない議論ですね。
個人的見解ですが、現在様々な論文で公表されているデータを元にすれば、成長ホルモン製剤によるアスリートのドーピング行為に関してはリスクに対して効果が少ない、つまり「割に合わない」です。
勝負事のココ一番!というタイミングで勝敗を分けるほどの集中力や実力以上の力を発揮するタイミングというのは、「自分に対する嘘偽りない努力に裏付けされた自信」を積み上げた後に得られるものだと思うんですね。
後ろめたいことをしたという心に雲がかかっている状態で、実力以上の奇跡を起こせる可能性は低いと、ましてやオリンピックでメダルなんて取れるわけないと僕は思いますけどね。
マニアックな内容ですが、皆様のお役に立てれば幸いです!それではまた!
<参考文献>
・Yao-Xia L, Jing-Yan C, Xia-Lian T, Ping C, Min Z. The 20kDa and 22kDa forms of human growth hormone (hGH) exhibit different intracellular signalling profiles and properties. Gen Comp Endocrinol. 2017 Jul 1;248:49-54. doi: 10.1016/j.ygcen.2017.04.010. Epub 2017 Apr 17. PMID: 28427901.
・Momomura S, Hashimoto Y, Shimazaki Y, Irie M. Detection of exogenous growth hormone (GH) administration by monitoring ratio of 20kDa- and 22kDa-GH in serum and urine. Endocr J. 2000 Feb;47(1):97-101. doi: 10.1507/endocrj.47.97. PMID: 10811299.
・「GH欠損わい小ラットにおける20KDa,22KDaヒト成長ホルモンの比較検討」
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